M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)では、売上や利益だけでなく、貸借対照表に計上されている資産・負債の内容についても詳細な確認が行われます。
その中でも、建設業や設備工事業、システム開発業、設計業などの受注型ビジネスにおいて重要となるのが「仕掛品」の評価です。
仕掛品の金額は運転資本や純資産に影響するため、企業価値算定においても見逃せない項目の一つとなります。
●仕掛品とは
仕掛品とは、決算日時点で作業や製造が完了していないものの、すでに着手している案件や製品を指します。
例えば、
- ・工事途中の建設案件
- ・開発中のシステム案件
- ・設計途中のプロジェクト
- ・製造途中の製品
などが該当します。
これらは将来売上となる見込みがあるため、貸借対照表上は棚卸資産として計上されます。
●DDで仕掛品が注目される理由
M&AのDDでは、仕掛品が適切に計上されているかを確認します。
特に中小企業では、
- ・仕掛品の計上基準が明確でない
- ・原価集計が十分に行われていない
- ・長期間動いていない案件が含まれている
- ・実態より少なく計上されている
といったケースが見受けられます。
仕掛品が過大であれば企業価値を押し上げる要因となり、反対に過小であれば本来の企業価値が十分に評価されない可能性があります。
そのためDDでは、仕掛品残高の妥当性について詳細な検証が行われます。
●一般的な仕掛品評価は原価基準
仕掛品は一般的に、発生した原価を基礎として評価されます。
具体的には、
- ・材料費
- ・労務費
- ・外注費
- ・その他経費
などを集計し、進行中案件に対応する部分を仕掛品として計上します。
この原価基準による評価は、会計上・税務上も広く採用されている考え方です。
●DDでは収益性の観点から分析されることもある
一方で、M&AのDDでは、仕掛品残高の妥当性を検証するための参考分析として、受注金額や売上総利益率(粗利率)を用いた検討が行われる場合があります。
例えば、
- ・受注金額
- ・想定される粗利率
- ・現在の進捗率
などをもとに、進行中案件が将来的にどの程度の売上や利益を生み出す可能性があるかを分析します。
もちろん、これは会計上の仕掛品評価額を決定するものではありません。しかし、帳簿上の仕掛品残高と比較することで、計上額が実態と大きく乖離していないかを確認する材料となります。
特に案件別の原価管理が十分でない企業では、このような分析がDDの過程で行われることがあります。
●企業価値への影響
M&Aでは、対象会社の企業価値を算定する際に、運転資本や純資産の状況が重要な判断材料となります。
そのため、仕掛品についても単に帳簿残高を確認するだけでなく、
- ・進行中案件の内容
- ・受注残高
- ・利益率
- ・進捗状況
などを踏まえながら、その金額が事業実態を適切に表しているかを検証することが重要です。
特に受注型ビジネスでは、仕掛品の評価が企業価値に一定の影響を与えるケースもあるため、DDにおいて丁寧な確認が求められます。
●まとめ
仕掛品は、受注型ビジネスを行う企業にとって重要な資産の一つです。
一般的には原価を基礎として評価されますが、M&AのDDでは、その妥当性を確認する観点から、受注金額や売上総利益率を活用した分析が行われる場合もあります。
もっとも、こうした分析はあくまで参考的なものであり、実際の評価にあたっては案件内容や原価管理の状況などを総合的に判断する必要があります。
M&Aを検討する企業にとっては、日頃から案件別の原価管理や進捗管理を適切に行い、仕掛品の根拠を明確にしておくことが、円滑なDDと適正な企業価値評価につながるでしょう。
執筆者:杉村 康裕
M&Aアドバイザー / 中小企業診断士